モノノホン

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懐かしの「古紙配合率偽装問題」の問題

 年末に実家で年賀状に関する記事を途中まで書いてほったらかしにしていた。その記事で、10年前に起きた「古紙配合率偽装問題」について触れたのだけど、その部分が長くなっていたので、年賀状とは別の記事とすることにした。というわけで、普通の人は忘れているであろう古紙配合率偽装問題について。

 


 かつて起きた年賀葉書の古紙配合率偽装問題を覚えている人はいるだろうか。この問題は2008年1月に内部告発によって発覚した。1月8日に初めて報道されたので、松の内が明けた直後という、いま覚えばすごいタイミングでニュースにされたと思う。このときは僕は大学生だった。
 偽装の内容としては、古紙が40%入っていると謳われていたにもかかわらず、実際にはそれ以下の古紙しか含有されていなかったというもの。つまり、品質的にはむしろ「いい紙」を作っていたことになる。いろんな業界で偽装が問題になるが、品質的に優れたものを売っていたというところが、他の偽装問題とは違う。
 なぜ古紙を入れない年賀葉書を作ったのかというと、古紙入りの年賀葉書は「採算が合わない」からである。
 古紙入りの紙というのは、作るのが難しい。古紙パルプはフレッシュパルプに比べて繊維が弱いし、余計に漂白もしないといけない。気も遣うし手間もかかるし何より金がかかる。特にそれは葉書のような上等な紙を作るのであればなおさらだ。葉書がわら半紙の色になったら、たぶんみんな怒るよね。
 90年代中頃に、国が年賀葉書を古紙入りのものにすると決めた。しかし当然ながら年賀状の売価は変わらないし、品質を落とすわけにはいかない。ユーザー(一般客)への年賀状の売価が変わらない以上、古紙を入れたからといってメーカーが得る金が極端に増えるとは考えられない。「古紙を入れろ、しかし品質は落とすな」というのは、技術が伴わないのなら、紙のメーカーにとっては無茶な要求である。
 なので、古紙を入れずに紙を作った。そちらの方が安いからだ。しかし国に「古紙入れてません」とは言えないので、黙っていた。古紙偽装の問題は、粗悪なものを作っていたことが問題なのではなく、ユーザーをだましていたことが問題なのだ。まあ、葉書を作る製紙会社すべてが横並びで偽装していたということも、けっこう闇ではあると思うが。

 

 なぜ国は葉書を古紙入りにしようとしたのだろうか。これは簡単。「地球環境に配慮している」という姿勢をアピールしたかったからである。
 紙を作るのには木を使う。木を切るのは環境破壊であるというイメージがある。木のかわりに古紙を使えば環境に良いのではないか、というのは、まあ分からないでもない。たしかに紙を作るのに使う木の数だけでいうと、古紙を使った方が使う木は減る。
 しかしながら、それは木の伐採量のことしか考えていないのであって、古紙パルプを使うのには手間がかかるから、木の使用量を減らした結果、化石燃料の使用量が増えました、という事態にならないとも限らず、そうなったらどちらが環境に悪いのかもう分からない(日本製紙は2007年に、製造工程で化石燃料由来のCO2排出量が増加するケースがあるという理由で、古紙100%の紙の製造を中止している。いまはまた製造している)。
 また、「保全」ということを考えるなら、適度に木を切って循環させた方がいいという考えもある。
 そこまで頭を回す人は、残念ながらそう多くないだろう。古紙が入れば入るほど環境に配慮している気に、人はなりがちだ。これはメーカーの周知の仕方にも問題がある。
 一般ユーザーが「古紙が入った方が環境によい」と信じているので、いつまでも国がフレッシュパルプ(バージンパルプ)100%配合の紙を使うわけにもいかない。「いつまで環境に悪いものを使っているんだ!」と批判されかねないからだ。なので国は「環境に配慮しています」アピールをする。そのひとつが古紙入り葉書の発行だった。
 環境に配慮した製品は金がかかる。しかし、葉書の値段を上げたら、たぶんほとんどのユーザーは怒るだろう。それによって葉書の使用が減るかもしれない。つまり、品質は求めるのに金は出さないという、メーカーからしてみれば滅茶苦茶な要求を受けた。製紙メーカーを全面的に擁護するわけではないが、ユーザーが短絡的で、しかも「いいものに対価を払う」ということをしないのが、この事件のそもそもの発端であったと思う。「やってほしけりゃ金を出せ、しかし本当に環境にやさしいかは知らんよ」という姿勢を、メーカー側もきちんと出すべきだったと思うが、現実問題としてなかなか難しいのもわかる(でもやらないとみんな勘違いしたままになる)。

 

 僕が小学生だった頃、学校で使われるプリントはわら半紙だった。これはたぶん環境のことを考えてというより、単純に安いからだと思う。
 白色度の高い上質紙の方が安価になった、ガリ版や輪転機からコピー機での印刷になった(わら半紙はコピー機での印刷に適さない)、わら半紙は破れやすく変色しやすい、などの理由で、現在では学校でもわら半紙を使うことはほとんどないらしい(使うメリットが少ないので)。
 2000年に制定され、2014年に一部改定された「グリーン購入法」により、公共団体は環境に配慮したグリーン購入または購入する努力をする義務ができた。国など公共団体が率先して環境に配慮する姿勢をとるのは大切なことだと思うが、それが「本当に」自然環境のためになっているのかどうか、環境に配慮したいのであれば、きちんと見ていかなければならない。

 

 ちなみにわら半紙は最近ではケーキを作る際の敷紙にも利用されているらしい。水分を吸収しやすい特性を活かしているようだ。
 ただ、古紙がたんまり入っているから、あまり食品に直接触れる用途では使わない方がいい気がする。「直ちに影響はない」だろうけど。