モノノホン

モノノホンによると、ここは地球の片隅であり、世界の真ん中であるらしい。

広告『動物愛護先進国に生まれ変わろう。』をめぐる話題について思ったこと

 AppleiPad ProのCMで、子どもがiPad Proをいじっていて、隣の家のおばさんが「コンピュータで何してるの?」と聞かれ、「コンピュータって何?」と答えるものがある。iPadだってコンピュータやんけ、というツッコミはさておき、要は「パソコンなんてなくったって大丈夫」ということを言いたいのはわかる。
 このCMより以前に、最近の若者はパソコンのことがわからない、というような記事を読んだことがある。パソコンというのはスマートフォンに完全に取って代わられている、とのことだ。
 少し前に広瀬すずがCMで「私たちはスマホと大人になっていく初めての人類」というようなことを言っていたが、なるほどその世代にとってパソコンはもう必要のないものなのかもしれない。学生でさえ、タブレットでレポートが書けるようになり、また提出もデータでいいということになれば、パソコンを所持する必要がなくなる。
 そんなわけで、あらゆる環境が変わって、パソコンに固執しなくても、ネットの世界を楽しむことは容易になった。というか、もはやむしろスマートフォンタブレットでの方が、楽しめるものが多いのかもしれない。広瀬すずよりひと回り上の世代の僕としては、その変化に驚くばかりだ。

 

 その結果、一般人が発信できるツールで世界はあふれている。こういうブログだってそうだろう。僕はインスタグラムはほぼ見ることがないが(登録はしている)、ツイッターは日常的に見ている。誰でもが気軽に参加できるようになり、ここ数年で情報の世界はがらりと変わった。
 というわけで、今日はツイッター絡みのネタをひとつ。

 

 JR東海の子会社であるジェイアール東海エージェンシーという会社の金田栞さんと本橋彩恵さんが作った「動物愛護先進国に生まれ変わろう。」という広告に対する個人のツイートが、少し話題になっているようだ。僕も誰かのリツイートでこの広告の存在を知った。2017年度の「新聞広告クリエーティブコンテスト」というコンテストの最終審査まで残った作品とのこと。
 広告の上部に「日本に生まれなければよかった。」と大きく書かれ、そ下には保健所にいる犬のイラストと、「無責任が生んだ一年間の殺処分の数」として、「日本 82,902頭」と「ドイツ 0頭」の数字が並んでいる。ツイートをした人は、「心が凍りついた画像」としている。
 僕はいわゆる鉤括弧つきの「動物愛護」の問題について、いまの段階では自分の姿勢を定められていないので、この広告とツイートを見ても特に何も思わなかったが、この数字に関しては、「絶対に裏に何かあるな」と思った。直感的には、「ドイツには犬や猫が存在しない」か、「ドイツには殺処分という制度がない」といったところがすぐに思い浮かんだ。
 「鉄道の踏切事故をなくす最善の方策は、踏切をなくすことだ」という考えが僕は好きなのだが、踏切がなければ踏切事故はなくなるように、殺処分の対象の動物、あるいは殺処分という制度(言葉)がなければ、殺処分はなくなる。
 しかしまあどうやらドイツにも犬や猫はいるとのこと(そりゃそうだ)。なので、ドイツでの殺処分という制度について調べてみた。

 

 国立国会図書館の調査及び立法考査局農林環境課の遠藤真弘氏という人が、2014年に『諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 ―イギリス、ドイツ、アメリカ― 』という報告をしている。
 その報告によると、ドイツでは「各地の動物保護協会(民間団体)が運営する全国500か所以上の動物保護施設「ティアハイム」(Tierheim)が、飼い主斡旋等を行っている」とのことで、「ドイツ動物保護連盟は、「ティアハイム」の運営指針において、基本的に殺処分してはならないと定めている」ようである。
 一方で、「ドイツ連邦狩猟法は、狩猟動物を保護する目的で野良犬・猫の駆除を認めており、狩猟者は、合法的に野良犬・猫を殺すことができる」ことも指摘しており、「動物保護施設での殺処分とは目的が異なるが、本来であれば動物保護施設に入居してもおかしくない野良犬・猫や捨て犬・猫が駆除の対象となっており犬猫殺処分と無関係であるとは言えない」としている。
 その数としては、「ノルトライン・ヴェストファーレン州は、狩猟者による駆除頭数を、野良猫10,047頭、野良犬77頭(2012年度)と発表している。ドイツ全体の駆除頭数を示す公的統計は存在しないが、年間猫 40万頭、犬6万5千頭に達すると指摘する動物保護団体もある」とのことである。
 動物の受け入れについて、「ドイツの「ティアハイム」は、基本的に受入制限を設けていないが、受入能力を超える入居が長期間続く事態を避けるため、緊急措置として受入制限をする場合がある」ようである。

 

 まとめると、
・ドイツでは基本的に施設での殺処分は行われていない
・ただし病気や怪我で苦しむ動物については、動物福祉の観点から、安楽死という形で殺処分が行なわれている
・一方で狩猟によって犬や猫が駆除されている
 ということである。

 

 金田・本橋両氏の広告に戻ると、なるほど概ね「嘘」は書いていない。遠藤氏の報告によると、安楽死の殺処分もあるようなので、まったくのゼロというわけではないようだが、それを「無責任が生んだ」としなければ、その数字でいいのかもしれない。
 しかしながら、ミスリードを誘う広告である印象は受ける。日本において狩猟で犬や猫がどれだけ殺されているかはわからないが、「人間に殺された」という意味では、もしかしたら日本よりドイツの方が数が多いのかもしれない。意図的にそのことを無視しているのであれば問題だし、ドイツでの実情を知らないのであればあまりにもお粗末だ。
 そして何より、何も調べずそれにホイホイ釣られてしまう人がいることも嘆かわしい。まあでも、広告っていうのは、そういう人を対象に作られているんでしょうけど。

 

 当たり前のことだが、僕は殺処分を「是」としているわけではない。人間の勝手な都合で殺される犬や猫はゼロに近ければ近いほどいいと思う。
 しかし、その「殺処分をなくす」という目的のため、偏った数字を持ち出すのは、フェアでない。「日本では82,902頭の犬や猫が殺処分されている」という数字だけではインパクトがないと判断したのだろうが、それを、嘘ではないといえ、ドイツの数字を持ち出して語るのは、やり方が間違っていると思う。

 

 今回の話題については、ツイートをした人に対し、即座に「この数字は正確ではない」という情報が伝えられた。個人に対していささかやりすぎのような気もするが、しかし何かを発信するということは、それだけのリスクを伴うということだ。
 個人が何かを発信できること、その発信について別の個人が何かを発信できることは、僕は基本的には歓迎すべきことだと思う。その行き過ぎとか、安易な発信が、大きな問題になってはいるので、うまくバランスをとる必要はあるのだが。

 

 広告というのは、大衆に訴えるきわめて有効なツールではあるが、見る側は、その「うさんくささ」のようなものも同時に感じなければ、騙されるばかりだと思う。